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知の拠点化推進室
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原発避難地域の中高生による「聞き書き」プロジェクト
 
 

【佐藤彰彦准教授/トヨタ財団】

 

●研究(=プロジェクト)の概要 

 本プロジェクトは、平成26~27年度にかけて、トヨタ財団から助成を頂いて実施したもので、現在は、住民団体が事業を継続しています。研究というよりは「被災者の暮らしの復興」にかかわる取り組みといった方がよいでしょう。

 その内容は、福島第一原発事故によって避難を余儀なくされた福島県富岡町の子どもたちが、「話し手」である故郷の長老に「聞き書き」をおこない、それをひとつの作品に仕上げるといったものです。子どもたちは、「聞き書き」の基本技術にかんする研修を受けたのち、数回にわたるインタビューのアポ取り、聞き取り、書き起こし、作品づくりを自らおこないます。

 完成した作品は「話し手の人生」にほかなりません。長老に話しを聞き、実際の暮らしぶりに触れ、聞き取った内容を書き起こし、作品に仕上げていくうちに、子どもたちは、長老の生き様にふれ、相手と同化していきます。彼らはその過程で、これまで知らなかった故郷──その成り立ち、先人たちの暮らしや仕事の営み、脈々と受け継がれてきた歴史や文化など──について学んでいきます。

 

●研究(=プロジェクト)の背景と目的

 このプロジェクトの発端は、ある町民(3.11当時42歳男性)の発意にもとづいています。3.11当時、小学生と中学生の子どものいた彼は、同じ子育て世代の親たちと、子どもたちの将来を心配していました。

  「この町の子どもたちは、それぞれの想いとか、仲のよかった友人とか、さまざまなものを地元に残したまま、突然、地域から引き離された……心の準備も何もないまま。『故郷を卒業』することさえできずに、故郷から分断させられた状態が続くなかで、多くの子どもたちは心に傷を負っている。(略)せめて、子どもたちに『故郷を卒業』させてあげたい。そうすることで、子どもたちは幾多の困難を乗り越え、やがて故郷と向き合えるようになるはずだ。」

  この言葉をきっかけに、本プロジェクトは、以下を目的としておこなわれました。富岡町に暮らしたこどもたちが、故郷の長老への「聞き書き」という行為を通して、

①子どもたちに、自らが育った地域の歴史・風土、先人たちの教えなど有形無形の財産を学び・伝えること。

②そうした、故郷に脈々と息づいてきた<生の証>を継承する行為を通じて、子どもたちが、今後の避難生活を乗り切り、将来を生き抜いていける力を養うこと。

③「聞き書き」という行為を通じた子どもたちの成長プロセスを大人たちに波及し、その成果を空間的・時間的に広めていくこと。

 

 

●研究(=プロジェクト)の成果など 

 手前味噌ではありますが、子どもたちの成長ぶりをみると、これらの目的は概ね達成できているように思います。当初は、精神的に不安定だった子、故郷と向き合うことに後ろ向きだった子もいましたが、参加した子どもたちどうし支え合うなかで、自らそうしたことを克服していったようです。

 出来上がった作品のなかには、語り手である長老たちの生き様がよく表現されています。その生き様は、富岡町の歴史のなかで、家族・地域・仕事などを通じて経験・蓄積されたものにほかならず、そこに、大先輩たちの大切な教えが込められています。

 「家族と、町の人と、皆と過ごした富岡町」、「俺が手ぇ引っ張ってやるから、俺の手ぇ引っ張ってくいよ(くれよ)」、「麓山(はやま)さまはいつもそばにいた~生活の一部であった火祭りへの思い~」、「自然に生き、自然を後世へ」……。子どもたちが付けた作品のタイトルには、そうした教えやメッセージがよく表れています。

 子どもたちも色んなことを考えさせられたようです。以下、参加した子どもたちの感想の一部です。「町の未来を繋げていくために今、自分は何ができるのか」(3.11当時15歳男性)、「(作品を読んでくださる方々に)自分自身の『ふるさととはなにか』を見つけてほしい」(3.11当時12歳女性)。

 

 

●地域とは何か? 

 以上、プロジェクトについて紹介しましたが、研究とのかかわりから若干の私見を述べたいと思います。

 日本という国は都市によって構成されています。国勢調査によれば、市部と郡部の人口比は約9対1。これを人口集中地区(DID地区)の数値でみても約7対1。この国はいわば、「都市の論理」で動いているといってもよいでしょう。そんな我が国にあって、富岡町のような地域で築かれる(築かれた)経験というのは、何事にも代え難い貴重なもの──人間として生きていく上で大切な財産──だと思います。というと情緒的ですが、そうしたことを得られる地域は、「自治」や「コミュニティ」という観点から見たときに、非常に多くの示唆に富んでいます。 

 本プロジェクトの対象である富岡町のような地域を観察していると、地域というのは、たんなる土地や空間ではなく、人間関係、経験や記憶、歴史・文化とのかかわりなど、あらゆる関係性の総体であるといえます。これらは、複雑に絡み合うように重層的にできていて、そこに、暮らしや仕事、政治や行政が密接にかかわっています。本プロジェクトをスタートさせたのも、その後、住民団体によって活動が継続していることも、そうした地域のありようによるのかもしれません。

 先ほどの「都市の論理」からは説明が難しいのですが、富岡町をはじめ、今回の原発事故によって長期の避難生活を余儀なくされた被災者たちのなかには、避難元の地域(=空間)から引き離されてもなお、経験・記憶・関係性などが「空間なきコミュニティ」として存在し続け、避難先での彼らの生活を支え続けている現実が観察できます。本プロジェクトに参加した子どもたちのなかにも、着実にそれが根付いています。

 今後は、「空間なきコミュニティ」の生成要因やメカニズムを解明し、言語化していくプロセスのなかで、「地域とは何か?」という問いを掘り下げていきたいと思っています。

このページに関するお問い合わせ

知の拠点化推進室(図書館1階)
  担 当:  研究支援チーム
  電 話:  027-344-6244
  F A X :  027-343-7103
  メール:  kenkyushien@tcue.ac.jp